【2025年6月28日施行】欧州アクセシビリティ法(EAA)とは?企業の対策まとめ


このブログはトランスパーフェクトのEUチームが主催し、英語で配信されたウェビナー「Understanding the European Accessibility Act (EAA): What You Need to Know Now」をもとに編集されています。
2025年6月28日、EUで新たな「欧州アクセシビリティ法(European Accessibility Act)」が施行されます。
この法律は一見すると遠いヨーロッパの話に思えるかもしれませんが、実は日本国内の企業や、日本語で業務を行う海外駐在者にも直接関係する可能性があります。 EUの消費者や企業に向けて製品・サービスを提供している日本企業はもちろん、EUのグループ会社やクライアントに関わっている方々も対象となり得ます。
「うちはEUで事業をしていないから関係ない」と思われる方もいるかもしれません。 しかし、実際にはケベック州のBill 96や日本の障害者差別解消法と同様、この法律も日本企業に大きく関わる可能性があります。
たとえば、以下のようなケースは対象となる可能性があります:
- EU域内の顧客に向けて製品やサービスを提供している
- EU域内で利用可能なWebサイトやアプリを運営している
- EU企業の下請けとしてソフトウェアを提供している
また、B2C企業だけでなく、B2B企業も無関係とは言えません。たとえば、決済端末や券売機などを他社に提供している場合、その最終提供先が消費者であればアクセシビリティ対応が求められる可能性があります。
今、世界中の企業が急ピッチで対応を進めています。本記事では、トランスパーフェクトが開催したウェビナーシリーズの内容をもとに、「何が求められるのか」「何から始めるべきか」をわかりやすく解説します。
欧州アクセシビリティ法(EAA)とは?
EAAは、障害を持つ人や高齢者など、すべての人にとってデジタル製品・サービスが利用しやすくなることを目的としたEUの新法です。
EU加盟国ごとに国内法として導入され、罰則付きでの対応が求められます。GDPRや製品安全法と同様、未対応のままでは重大なリスクを抱えることになります。
特徴的なのは「成果ベースの法律」である点です。つまり、「〇〇を実装すればOK」という明確な仕様ではなく、「〇〇ができるようにすべき」という結果が求められます。そのため柔軟性がある一方で、対応に迷う場面も多く、各部門の連携が必要です。
対象となる製品・サービス
EAAでは、成果ベースで「誰にとっても使用可能であること」が求められるため、製品やサービスの実装にあたっては以下のような具体例が参考になります:
- 製品の物理インターフェースに関する対応 → ATMや券売機のボタンに触感識別、点字、視覚コントラストを適用 → 音声ガイダンスやイヤホンジャックを搭載
- Webサイトやアプリに関する対応 → 音声読み上げ対応(支援技術との互換性) → 拡大表示・色反転モードの選択肢を提供 → 操作説明やメニュー構成を明確化(認知負荷を軽減)
- Eコマースや契約機能のあるサービス → オンライン注文や予約の流れをキーボード操作だけで完結できるようにする → 支払いステップ中のエラーメッセージを明示し、音声にも対応させる
- デジタルコンテンツの明瞭性向上 → パッケージや利用説明書にピクトグラム・大きなフォントを併用 → 電子書籍に文字サイズ変更・音声読み上げ機能を実装
(参考:European Commission EAAガイドライン、Annex I of Directive (EU) 2019/882)
特に以下の分野が明示的に対象とされています:
- コンピュータ、スマートフォン、OS
- ATMやキオスク端末(券売機など)
- デジタルTV、放送機器
- 鉄道・航空などの交通予約
- 銀行サービス、Eコマース(ネット販売)
- 電子書籍
そのほか、ECサイトやアプリ内で契約・購入が発生する場合、ゲームやストリーミングサービスなども範囲に入る可能性があります。また、製品に付随するパッケージ・取扱説明・マーケティング文言にも明瞭性・読みやすさが求められます。
サービスに使われる端末や機器にもアクセシビリティ義務が及ぶため、ハードウェア・ソフトウェアの両面での対応が必要です。
対象企業と例外
マイクロ企業(従業員10人未満、売上またはバランスシートが200万ユーロ未満)には一部例外があります。 また「対応によって製品の本質的な機能が損なわれる」「過度な負担になる」といった理由も例外規定に含まれますが、いずれも文書による根拠の提出と当局への通知が必要です。
違反した場合のリスク
違反した場合、各国の判断により以下のような制裁が科される可能性があります:
- 製品・サービスの販売停止
- 是正命令やリコール命令
- 特定市場での信用失墜
- 高額な罰金(例:ベルギー最大3%の売上、ドイツ最大10万ユーロなど)
EAAは規制当局だけでなく、競合他社や消費者からの通報がきっかけになるケースも想定されており、GDPRと同様に「一国での違反が他国にも波及する」リスクもあります。
対応に向けたステップ
講演では、「今すぐ着手可能な対応から始めること」が最も重要だと強調されていました。以下のステップが推奨されます:
- 対象となる製品・サービスの棚卸し
- アクセシビリティに関する初期評価(ギャップ分析)
- 修正可能な不具合から優先的に対応
- 対応内容や進捗の記録(将来的な監査や報告に備える)
- 社内での認識向上・教育(マーケ、営業、開発、法務など横断的に)
特にマーケティング部門が「アクセシビリティ対応」を訴求ポイントとして過度に活用することは、法的なリスクにもなり得るため注意が必要です。
ツールと支援体制
現時点では、AIツールだけで対応を完結するのはリスクがあるとされています。 一部の自動テストや音声読み上げ機能は有効な手段ですが、障害当事者による実使用テストが最も信頼性のある手段です。
また、第三者診断や監査レポートも、法的観点と技術的観点の両方をカバーしているか確認することが重要です。
アクセシビリティは「ブランド力」にもつながる
この法律対応を「単なる義務」と捉えるのではなく、ユーザー体験の質を向上させる機会とする企業も増えています。
たとえば:
- 色覚異常に配慮した配色 → 屋外や暗所でも読みやすくなり、すべての人にとって使いやすい
- 自動字幕付き動画 → 英語学習者や非ネイティブ話者にも情報が伝わる
- キーボード操作への対応 → 一時的にマウスが使えない人にも役立つ
また正直なところ、EAAに対応するコストが罰金などのリスクを上回ると判断し、「対応しない」という選択をする企業もあるかもしれません。
しかし、EAAは消費者・競合他社・NGOなど第三者からの通報がきっかけとなる法律です。罰則よりもむしろ評判や信頼の失墜、インターネット上での炎上の方が大きな打撃となる可能性があります。
特に、ブランドとして認知されている企業にとっては、法令順守だけでなく「配慮ある姿勢」を示すことが競争優位となり、長期的な企業価値の向上にもつながります。
まとめ
EAAは、EUだけでなく、グローバル市場で活動するすべての企業にとって「新たな当たり前」となりつつあります。GDPRのように、後手に回ることで発生するコストや評判リスクは非常に大きいため、今すぐに行動を起こすことが最善のリスク回避策です。
トランスパーフェクトでは、以下のような包括的な支援を通じて、企業のEAA対応をサポートしています:
アクセシビリティ診断および改善支援
- Webサイトやアプリのアクセシビリティ診断
- EAAの要件と技術仕様に基づく評価
- 法務観点からのガイドライン適合性チェック
- 特定された問題点の修正
- コンサルティング・ワークフローの設計と整備
- 対象製品のコンテンツ・UI/UX監査
- ユーザビリティテスト
- 障害当事者を含むテスト実施
- 記録・報告書の作成サポート
- 法令対応に必要な文書整備
多言語対応とアクセシブルコンテンツ制作
- 多言語翻訳およびローカライズ
- アクセシビリティ対応を含む
- 200以上の言語に対応
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教育と啓発
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